ガーナにおけるマラリア対策でドローンとAIを活用

アクセスが困難な地域における革新的な媒介蚊対策の実証

2026年7月7日
Quadcopter drone hovering over a tropical garden with large banana leaves.

マラリアの感染拡大を防ぐため、蚊の発生源に薬剤を散布するドローン。

マラリアは依然として世界で最も深刻な公衆衛生上の課題の一つです。世界保健機関(WHO)によると、毎年数億人が感染し、その大半がアフリカに集中しています。特に5歳未満の子どもが死亡例の多くを占めています。予防や治療において着実な進展が見られる一方で、多くの地域では依然として感染が広がっています。 

2025年、ガーナではマラリアによる外来受診件数が18.3%、入院患者数は14.3%を占めました。一部地域では対策の成果が見られるものの、蚊が繁殖しやすい地域では、依然として状況は深刻です。 

その一例が、ガーナのアクラ州アダ・イースト郡です。同地域では湿地、ラグーン、水田、沿岸部の水系が広がり、特に雨季には蚊の繁殖に適した環境が形成されます。そのため、マラリア対策は医療上の課題であると同時に、こうした環境下で対策を実施する上での課題でもあります。 

Photograph of six people in safety vests by a muddy canal in a tropical field.

アダ・イースト郡での実証事業対象地域で蚊の発生源を調査する、ガーナ保健省マラリア部局(NMEP)およびSORA Technologyの現地チーム。

マラリア予防の重要な戦略の一つが、マラリア媒介蚊の幼虫発生源管理(Larval Source Management:LSM)です。これは、蚊の幼虫が成虫になる前に、幼虫が生育する水域を対象として対策を行うものです。高い効果が期待される一方で、保健関係者によると、湿地や水田など蚊の発生源が広範囲に広がる環境下では、対策に多くの労力を要します。従来の手法では、一部地域で1キロメートルの蚊の水生生息地を作業員2名で処理するだけでも、最大10日間かかることがあります。 

こうした運営面における課題に対応するため、ガーナ保健省マラリア部局(NMEP)は、アダ・イースト郡においてドローンとAIを活用したLSMの有効性を検証する実証調査を開始しました。本調査は、国連開発計画(UNDP)の新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(Access and Delivery Partnership:ADP)、SORA Technology、および熱帯病研究・訓練特別プログラム(TDR)の支援のもと、日本政府の資金協力により実施されています。 

本アプローチでは、ドローンによるマッピング、AIによる蚊の水生生息地の特定、さらにドローンを活用した高精度の薬剤散布を組み合わせます。使用するドローンは大量の薬剤を搭載でき、地図化された対象地点への散布を1時間未満で処理できます。これは、従来の方法では数日を要する作業を、大幅に効率化するものです。 

検証する技術には、マッピングおよび薬剤散布用のドローンに加え、発生リスクの高い水生生息地を特定するAI解析が含まれています。

本調査で活用される技術は、日本発のスタートアップ企業であるSORA Technologyが提供しています。同社は、ドローンやAI、デジタル技術を活用した感染症監視や媒介蚊対策の強化に取り組んでいます。これまで複数の国でマラリア対策事業を支援してきたほか、各国の保健システムへの導入に向けた検証を関係パートナーとともに進めています。 

本取り組みの特徴の一つが、幼虫発生源管理の効率化を支援するデジタルプラットフォーム「Zzapp」の導入です。現場運営やモニタリング支援に活用される予定であり、SORA Technologyのマラリア媒介蚊対策事業において同プラットフォームが導入されるのは今回が初めてとなります。Zzappの導入により、デジタル技術が事業実施や関係者間の連携、進捗管理にどのように貢献できるかについて、新たな知見が得られることが期待されています。 

また、本調査は、国際協力機構(JICA)の支援を受けてガーナで実施された先行事業の知見を踏まえたものです。同事業では、乾季における蚊の発生源となる水域の把握にドローン技術が有効であることが確認されました。その一方で、繁殖環境が大きく変化し、対策の実施がより複雑となる雨季において、さらなる検証を行う必要性が提言されていました。 

UNDPガーナ事務所のプログラム専門官であるベリンダ・アマンカは次のように述べています。 

「本実証調査は革新的な技術が保健システムの強化やマラリア予防の改善にどのように貢献できるかを示す重要な知見を創出します。この成果は、こうしたアプローチを実際の現場でどう活用するか、また脆弱なコミュニティの保護にどの程度貢献できるかを検討する上で重要な指針となります。」 

Group of people in a muddy field among tall green stalks, digging with tools, some wear vests.

ドローンによるマッピングとAI分析で特定された地点において、蚊の幼虫の有無を確認する現地調査チーム。

本調査は2026年6月1日、NMEP、UNDP、SORA Technology、TDRおよび在ガーナ日本国大使館の代表者が参加する合同技術ミッションを通じて正式に開始されました。現地視察や地方自治体との意見交換に加え、実証調査で活用する技術のデモンストレーション、さらには初期マッピング作業にも着手しました。 

NMEPの衛生昆虫学の専門家であるクリスチャン・アッタ=オベング氏は次のように述べています。「この実証調査には大きな期待を寄せています。なぜならLSMを実施する上で、私たちが直面している課題の解決につながる可能性があるからです。アダ・イースト郡の広大な湿地帯はハマダラカ(蚊の種類)の主要な発生源となっていますが、こうした環境で繁殖地を特定し評価することは、従来の方法では容易ではありません。」 

TDRの同じく衛生昆虫学の専門家であるギルダス・ヤホエド氏によると、本調査では技術そのものだけでなく、ドローンを活用した媒介蚊対策を公衆衛生プログラムへどのように統合できるかも検証します。 

「実装研究とは、実証された介入策がどのように現場で活用されるのかを理解することです。今回の調査では、実現可能性や地域住民の受容性、費用対効果などを評価し、ドローンを活用した媒介蚊対策を持続可能な公衆衛生ツールとして確立することを目指しています。」 

アダ・イースト郡の対象地域は複数の区域に分けられており、一部では従来の手作業による散布、別の区域ではドローンを活用した散布が実施されます。これにより、両手法の効率性、コスト、カバー範囲を比較評価することが可能になります。 

Group of people in green shirts crossing a muddy field with a water-filled trench beside palm trees.

実証調査で評価される手法の一つとして、薬剤を手作業で散布する現場作業員。

SORA Technologyのアフリカ事業責任者であるメアリー・イエボア・アサンテワ氏は次のように述べています。 

「LSMおける最大の課題の一つは、特にアクセスが難しい環境において、対象となる水域を迅速かつ正確に特定し、対応することです。本調査を通じて、こうした技術が実際の環境下でどのような成果を発揮し、既存のマラリア対策をどのように補完できるのかを明らかにしたいと考えています。」 

在ガーナ日本国大使館は、パートナーシップが公衆衛生上の課題に対する革新的な解決策の実装を後押しすることの重要性を強調し、同大使館の経済協力調整員である久米 和泉氏は次のように述べています。 

「本取り組みは、政府、開発パートナー、そして民間セクターの連携による優れた協力事例です。ドローン技術はアクセスが困難な地域にも活用できるため、影響を受けるコミュニティにおけるマラリア対策の強化につながることを期待しています。」 

ドローンとAIを活用した媒介蚊対策の実現可能性、効率性、および運用上の課題を明らかにすることで、これらの技術がガーナをはじめとするマラリア流行国において、既存の予防対策をどのように補完できるかに関する今後の意思決定に役立つ知見を提供します。