TICAD30周年:過去を振り返り、未来を見据える

2023年8月26日に外務省主催、国連開発計画(UNDP)の後援で開催されたTICAD30周年行事「TICAD30年の歩みと展望」では、これまでのTICADの成果を称え、今後のTICAD及びアフリカと日本のパートナーシップを強化するためのディスカッションが行われました。

2023年11月3日
Photo: UNDP Regional Bureau for Africa

アフリカ開発会議(TICAD)は30年にわたり、日本からアフリカへの支援と投資を促進する上で重要な役割を果たしてきました。1993年の第1回会議以来、政府開発援助(ODA)による有償・無償資金協力や民間投資、開発金融の組み合わせにより、1,000億米ドルを超える支援が提供されてきました。アフリカ、日本、UNDPの強固で永続的なパートナーシップは、持続可能な開発を促進し、日本とアフリカの関係を強化し、国際的なパートナーシップを育む上で極めて重要です。

今夏開催された30周年記念イベントでは、日本放送協会(NHK)の二村伸解説委員の司会のもと、以下の3つのパネルディスカッションが行われました。国会議員、アフリカ各国の大使館、企業、市民団体、学者、自治体など、日本とアフリカ関係者が交流し、対面参加者は350名、オンライン参加者は243名となりました。

パネル1: TICAD30年の歩み

国際協力機構(JICA)理事長の田中明彦氏は、「TICADは、アフリカへの世界的な支援が減少していた冷戦終結時に設立され、アフリカ開発に関する知的対話のプラットフォームとしての役割を果たした」ことを強調しました。

「過去30年間、アフリカは数多くの国と協力してきました。アフリカ大陸の未来は、アフリカと日本の間の公平性、平和のための協力、賢明な資源・エネルギー外交へのコミットメントにかかっています。アフリカのオーナーシップが重要です」と、駐日エリトリア国特命全権大使のエスティファノス・アフォワキ・ハイレ 氏は述べました。

世界銀行駐日特別代表の米山泰揚 氏は、世界銀行の立場と今後数年間の民間投資拡大への取り組みについて説明し、「 TICAD発足以来、ODAは大幅に増加しましたが、民間投資は新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で減少しています。私たちの目標は、サハラ以南のアフリカに資金を提供する最大手の機関として、極度の貧困を撲滅し、アフリカ大陸の成長を加速させることです。」と強調しました。 

TICADは他の開発フォーラムと比較して、独自の強力なブランド価値を持ち、思いやりを重視するパイオニアであると、パネル全員が一致しました。TICADプロセスを通じて、各パートナーはアフリカ開発に対等の姿勢で取組み、特にアフリカのオーナーシップに焦点を当ててきました。 また、アフリカが様々な課題に取組む中で、特に人類共通の繁栄に不可欠な資源の管理に関するアジェンダを設定し、共同で取組む機会を提供してきました。

Photo: UNDP Regional Bureau for Africa

パネル2: TICADの変化、援助から民間投資へ

「アフリカに拠点を置く日本企業の数が増え続ける中、日本貿易振興機構(JETRO)はビジネス促進をTICADの中心に据え、ベンチャーキャピタルやグリーン・エコノミー、ブルー・エコノミーのキーパーソンなど、新たなアクターとの連携を進めています」と、日本貿易振興機構(JETRO)上席主任調査研究員の平野克己氏は概説しました。

日本経済団体連合会サブサハラ地域委員会企画部会長の 河村肇氏は、「経団連は日本企業が多く加盟する経済団体として、アフリカ連合のアジェンダ2063に沿ったデジタル化に注力しています 」と強調しました。また、経済同友会グローバルサウス・アフリカ委員会委員長の渋澤健氏は、新興国の社会的課題に取り組むインパクト・ファンドなど、アフリカでの取り組みを紹介しました。

株式会社日本貿易保険(NEXI)取締役の本道和樹氏は、「NEXIは、商業保険ではカバーされない海外取引で発生するリスクに保険で対応し、日本企業の海外進出を促進しています」と事業の概要を説明しました。

また、エネルギー転換の意義、民間部門の投資、技術移転に重点を置き、アフリカおよび世界における脱炭素化についても議論が交わされました。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)副理事長の和久田肇氏は、「リモートセンシング技術を活用した鉱山関連環境のモニタリング支援、また、JOGMEC鉱物資源の豊富な国で5つのジョイントベンチャー探鉱プロジェクトに積極的に取り組んでおり、リスクの高いプロジェクトに資金援助を行っています」と言及しました。

ABE (African Business Education) イニシアチブの学生であるエノラ・ラ・ボーヌ 氏は、アフリカと日本の架け橋となるべく努力していると話し、特に現地の状況を把握するための相互の情報共有と協力の重要性を強調しました。TICADはアフリカと日本の企業間で知識を共有するためのインターフェースであり、プラットフォームであるべきとの意見で、登壇者全員が賛同しました。

パネル3:TICADの将来

TICADの将来に焦点を当てた最後のパネルでは、ハイレベルな登壇者が一堂に会し、TICADと日本が今後果たすべき役割について議論しました。

エザコンワによるスピーチの様子

Photo: UNDP Regional Bureau for Africa

衆議院議員(日本・アフリカ連合友好議員連盟)の 鈴木貴子氏は、自民党のプロジェクトチームの提言に着目し、「TICADを戦略的に活用することで、日本が国際社会で推進するイニシアティブへの支持を得たり、ニーズに耳を傾けたり、ODA予算を確保したり、アフリカへの民間投資を促進する施策を強化したりすることができます。TICAD9に向けた関係省庁・公的機関の役割を強化することを通じて、大きな可能性が生まれていきます」と言及しました。

UNDP総裁補兼アフリカ局長のアフナ・エザコンワは、AfCFTAの存在もあり、今日のアフリカが援助からの脱却や民主化に向けて着実な進歩を遂げていることを強調しました。「TICADは長い歴史の中で、グリーン投資から公衆衛生、地域の安定化まで質の高い成長を促進してきました。この歴史はアフリカ、日本、UNDPの尊重、尊厳、思いやりに基づく揺るぎないパートナーシップを証明しています。今後は、開発資金を再構築し、レジリエンスへの持続的な投資を行い、経済構造の転換と地域統合を優先させる必要があります」と述べました。

 エザコンワはまた、若者の参加とアフリカに対する既成概念やナレティブを変えるよう訴えました。「日本の若者は、アフリカが強く、たくましく、自分たちの運命を切り開く優秀な人々の大陸であることを理解すべきです。目標はアフリカを救うことではなく、アフリカと共に未来を創造することであり、私たちが望むアフリカは世界にとって不可欠です。この考え方の転換は、アフリカへのアプローチを変える上で極めて重要です。」

パネルディスカッションでは、多数のセクターの関係者が参加し、アフリカのオーナーシップを維持することの重要性が強調されました。アフリカの零細農家と協力する国際NGO、ササカワ・アフリカ財団理事長の北中真人氏は、再生可能な農業、栄養に配慮した農業、市場志向の農業の必要性を強調しました。

株式会社STANDAGE取締役副社長の大森健太 氏は、国境を越えた貿易の問題と、スタンデージがどのように新しい貿易決済システムを提供し、商品と決済の同時電子送金を促進しているかについて議論しました。

TICADはアフリカのビジョンや計画また世界的な開発枠組みに根ざしたものであるべきであると、登壇者一同が賛同しました。また、人への投資が不可欠であり、アフリカとの共創が大陸とTICADの将来にとって鍵となることが強調されました。