ガザの人道状況に関する国連総会非公式ブリーフィング

2023年11月23日

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国連総会議長、各国代表の方々、皆様、

本日、国連開発計画(UNDP)の立場からガザ情勢についてブリーフィングする機会をいただき、感謝いたします。

このような危機に対して、人命救助や甚大な人的被害の即時救済のために必要な人道的対応に焦点を当てた慎重な検討が行われます。

今日のガザでは、この数週間を通して繰り返し主張され、また本日このブリーフィングで同僚から聞いてきたように、人道支援が絶対的な優先事項であることに変わりはありません。

約6週間にわたる戦争によって、ガザ地区では、前例のない人道的ニーズ、人命の損失、人的被害、避難、破壊といった大規模な危機が発生しています。

これは、私たち人類にとって、決して受け入れることのできない、また受け入れるべきでない危機です。

UNDPは、協力関係にある国連機関とともに、人道支援従事者が手を差し伸べ、命を救い、さらなる人的被害を防ぐために、ガザ全域での人道的停戦と即時かつ無制限の人道的アクセスを繰り返し求めてきました。すべてのガザ市民が尊厳を保てるよう、人道援助の流れは大規模かつ持続的でなければなりません。UNDPは、人道的停戦とすべての人質の解放を求める国連事務総長の呼びかけを強く支持します。

しかし、こうした人道的大惨事の上に、戦争や紛争下でしばしば見られるように、すでに開発面での危機が生まれつつあり、世代を超えて影響を及ぼす可能性があります。

UNDPのパレスチナ人支援プログラム(PAPP)は、1978年12月20日に国連総会で採択された決議によって設立されたもので、UNDPに対して「パレスチナ人の経済・社会状況の改善」を要請したものです。

UNDPは先日、西アジア経済社会委員会と共同で、現在進行中の戦争に関する緊急社会・経済影響アセスメントを発表しました。

この報告書には、アラブ諸国地域を熟知する一流のエコノミストたちが参加し、経済モデルの確立されたツールと、衛星画像による補完的なツールが用いられています。

それによると、戦争が経済と生活に及ぼす長期的な影響は、すべてのガザ地区住民だけでなく、パレスチナ被占領地の全住民の将来の見通しに壊滅的な結果をもたらす可能性があると結論づけられました。

この分析で得られた詳細な知見を紹介させていただきます。

ガザでの戦争は、すでに住宅ストックの50%を破壊し、この危機が訪れる前から脆弱な立場にあった人々に急激な被害をもたらしました。

この戦争以前、パレスチナでは146万人が貧困ライン以下の生活をしており、これは人口の26.7%にあたると推定されています。

もし戦争が2ヵ月目に突入すれば、貧困率は34%増加し、人口の36%近くまで貧困が拡大し、さらに50万人近くが貧困の中に突き落とされると推定されます。

戦争が3か月続くと、貧困率は約45%増加し、人口の39%近くが貧困に陥り、戦争前の数に比べて約66万人多い、計210万人以上が貧困に苦しむことになります。

ガザの全包囲、資本の破壊、強制移住、ヨルダン川西岸地区での人と物の移動制限、イスラエルからパレスチナ自治政府への税送金の停止などにより、パレスチナ経済全体へのショックは深刻なものになっています。

戦争開始から1ヵ月を経過した時点で、パレスチナのGDPはすでに4.3%減少し、8億5700万米ドルの損失を被ったと推定されています。

戦争が3ヶ月続けば、GDPの減少は12.2%に達し、損失総額は25億米ドルに達すると予想されます。

これらの数値を客観視するには、世界銀行が発表したコロナ禍の経済的影響による2020年通年のパレスチナGDPの損失が、11.3%であったことを考慮する必要があります。

つまり、現在の戦争の1四半期分の損失だけでもコロナ禍による1年間の損失を上回ることになります。

さらに、債務持続可能性分析を通じて、今回の戦争以前の公的債務が証明しているように、パレスチナの財政状況は持続可能ではない状態です。

2022年には歳入の約64%を占めていたクリアランス・レベニュー(イスラエルがパレスチナ自治政府に代わって徴収し、パレスチナ自治政府に移転する歳入)の減少により、債務は現在悪化していると予想されています。パレスチナ自治政府は、公務員の給与を全額支払うことができていません。

ガザでは、前例のない規模の破壊が経済を何年も後退させるとみられています。短期的なGDP成長率の低下だけでなく、長期的な影響をもたらすと考えられます。

農業、製造業、サービス業といった分野における生産能力の喪失に加え、このような深刻なインフラ破壊は、サプライチェーンの重要な要素である輸送活動に支障をきたし、正常な経済活動の再開を困難なものにするでしょう。 

国連衛星センター(UNOSAT)が北ガザ県とガザ市の2つの地域で実施した農業被害評価によると、36%以上のビニールハウスが戦争によって破壊または被害を受けました。

さらに、北ガザでは10月15日までに、ガザ・シティでは10月26日までに、砲撃による穴の存在が証明するように、これらの州では1,023の農地が被害を受けました。

また、衛星画像によると、ガザ北部の道路網全体で、合計539区間の道路が損壊しています。

労働と雇用に関して言えば、国際労働機関(ILO)の発表によると、パレスチナ人労働人口の約14%がイスラエルまたはイスラエルの入植地で働いており、そのうちガザ出身者は約2万人が占めます。

事態のエスカレーションにより、イスラエルは領土内のすべてのパレスチナ人労働者の労働許可を停止しています。

さらに、イスラエルによるヨルダン川西岸地区内の移動制限により、67,000人のパレスチナ人労働者が困難な状況に置かれています。 居住地以外の県にある職場に行くことは不可能となり、彼らは職を失う危険にさらされているのです。

戦争開始から1カ月が経過した時点で、ガザにおける雇用の61%、18万2,000人分の雇用が失われたと推定されています。また、ILOによれば、ヨルダン川西岸の雇用の約24%(20万8000人分)も失われています。

これらの悲惨な数値を念頭に置きながら、私たちのアセスメントでは、この戦争は人間開発に長期にわたる悪影響を及ぼすと結論づけています。

学校や病院が破壊され、ガザでの死者の数が増えるにつれ、人間開発指数(HDI)は急激に低下すると予想されています。人間開発指数とは、健康長寿、知識へのアクセス、人間らしい生活水準という、人間開発の 3 つの基礎次元に おける長期的な前進を評価する総合指数です。

最も楽観的な見通しでも、この戦争によってパレスチナの発展は11年遅れることになります。ガザが最も打撃を受けるのは明らかで、16年分の後退が予想されます。

戦争の影響がより甚大になるケースでは、パレスチナでは16年、ガザ地区では19年、発展が遅れることになります。

今お話ししたこの驚異的な数字が、ガザや占領下のパレスチナ全域の人々の実生活への影響につながることを忘れてはなりません。

この戦争がさらに1カ月続くごとに、現在そして中期的に、すべてのパレスチナ人、ガザ住民に莫大な、そして複合的な犠牲を強いることになります。

この戦争を止めるための努力は、人道上の急務であると同時に、開発上の急務でもあります。

戦争が始まって以来、ガザでは160万人近くが国内避難民となっており、特にガザの住宅の半数にのぼると言われる大規模な破壊が進んでいます。このアセスメントでは、経済の悪化が壊滅的な人道的状況をさらに悪化させ、回復の見通しを困難なものにし、遅れをもたらすと予想されます。

皆様、

この戦争によって影響を受けたガザの女性、男性、そして子どもたちが、家に戻ることを含め、少しでも日常を取り戻せるようにするためには、状況が整い次第、野心的な復興計画と経済的、社会的、人道的な復興計画が必要になるでしょう。

また、パレスチナ人が尊厳をもって自立し、将来への希望を維持できるような未来を守るための支援は、さらに困難なものになるかもしれません。

長期的な安定と安全保障は、パレスチナ人自身の努力によって達成される開発の成果を維持するために不可欠な条件であり、過去数十年にわたる国際社会からの数十億ドル規模の寛大な開発投資によって支えられています。

UNDPのパレスチナ人支援プログラムは、現場でのプログラムに関する専門知識と能力、運営経験を有し、状況が許せばすぐにでも実施を開始することができるため、復興努力の計画と管理を調整する権限を与えられており、適任者であると言えます。

国連決議に沿った交渉による和平のみが、こうした必要かつ基礎的な条件を確立できるという事務総長の主張に耳を傾けなければなりません。

私たちは懸命に努力し、脆弱性の連鎖を断ち切るために必要なあらゆる政治的意志を結集させなければなりません。