デジタル技術がアフリカの変革の鍵を握る

2022年6月30日
ahunna

5月25日に開催したAFRI CONVERSEにおいて、デジタル技術はアフリカの経済成長、民主的ガバナンスや市民社会の参画の拡大に貢献し、変革を促す基本的な力になり得るとパネリスト達が議論を行いました。

パネルディスカッションの冒頭、国連開発計画(UNDP)駐日代表である近藤哲生は、2022年8月の第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に向けて実施された今回のハイブリッド対談では、大陸全体でデジタルテクノロジーを推進するために国際機関、二国間援助機関、民間セクターによる好事例と教訓を取り上げると述べました。

UNDP総裁補兼アフリカ局長のアフナ・エザコンワは、デジタル変革は、人々や地球に力を与え、繁栄をもたらすと強調しました。

「アフリカ大陸の大多数の若い 『デジタルネイティブ』は、多くの開発課題を解決するためのデジタル・イノベーションのうねりを生み出す可能性を秘めています」と述べ、アフリカはおそらく、開発の道程の中で唯一、開発をリープフロッグさせることができる立場にあると付け加えました。

しかし、デジタル技術は開発の触媒となる可能性を秘めている一方で、アフリカの多くの国では技術へのアクセスが制限され、取り残されつつあるのが現状です。

アフリカの大部分は、学校、仕事、医療、金融サービスなどに必要な技術へのアクセスを確立できていません。国際金融公社(IFC)によれば、インターネットにアクセスできる人々はアフリカ全体人口のわずか40%と、世界で最もインターネット環境が不十分な大陸となっています。

新型コロナウイルスの流行によって、情報へのアクセスやデジタルから取り残された人々の脆弱性が浮き彫りとなり、デジタルサービスをより普遍的に利用できるようにする必要性が高まりました。

エザコンワは、気候変動や新型コロナウイルスなどの重要な課題により、開発戦略が勢いを失っていると指摘し、「デジタル技術の知識や科学を活用することで、災害に強い開発イニシアティブを築く大きな機会があります」と述べました。

国際協力機構(JICA)最高デジタル責任者の新井和久氏は、同機構のデジタル変革ビジョンは、デジタル技術とデータによって誰もが多様な幸福を実現できる社会の実現を目指していると述べました。

2020年、JICAはガバナンス・平和構築部門にSTI・DX室(Science, Technology and Innovation & Digital Transformation)を立ち上げました。

「デジタル変革へのアプローチとして、3つのトランスフォーメーションと9つのアクション戦略をJICAのウェブサイトで近日中に紹介する予定です。保健、教育、農業、環境、都市開発などの分野でより良い効果を得るために、デジタル技術の利用が奨励されています」と新井氏は説明しました。また、JICAはTICAD8に向けて、さらにそれ以降も、アフリカでのデジタル技術活用・DX支援を加速していくと述べました。

加えて、アフリカの繁栄のためにJICAはUNDP等の国際機関、市民社会、政府、民間セクター、日本政府などのパートナーとともに、開発のためのDXを推進すると新井氏は強調しました。その上で、「JICAは今回のAFRI CONVERSEやその他イベントを通じて、アフリカの開発、持続可能な開発目標、すべての人の繁栄の目標を達成するために、潜在的なパートナーからより多くの関心を集めたいと考えています」と述べました。

JICAのガバナンス・平和構築部 STI・DX室国際協力専門員の山中敦之氏は、アフリカ各地で実施しているSTI・DXプロジェクトを紹介しました。

JICAは現在、アフリカ全域で保健、水と衛生、教育、農業、産業開発、ガバナンス、人権、災害対策など多岐にわたる分野のプロジェクトにおいてデジタル技術活用を推進していると説明。その例として医療DXを取り上げ、「新型コロナウイルスに対して、JICAは日本の専門医と現地のICU医療従事者を遠隔で結び、技術的なアドバイスや能力向上活動を行うことで、途上国の状況を緩和する遠隔医療支援を行ってきました」と発表。また、アフリカの気候災害早期警戒システムと関連する災害防止を強化できるデジタル・イノベーションの事例を紹介しました。

さらに山中氏は、デジタル技術を活用して栄養失調の問題を軽減するJICAのイニシアティブについても言及しました。 アフリカの大部分では農業、特に自給自足農業が生活の柱となっているため、JICAは食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)と連携し、消費、生産、流通など栄養に配慮した食料情報をアフリカのコミュニティや家庭で促進するアプリを共同開発ししている事例を説明しました。

また、気候変動の影響を低減する技術もこのセッションで議論された課題の一つです。JICAとそのパートナーは、マダガスカルとセネガルでより効率的な水資源管理のために、衛星データを使って湖や貯水池、水田でどれだけの水が利用可能かを評価していくとのことです。

またデジタル技術の人権や子どもの権利を守るための試みとして、コートジボワール共和国のカカオ産業における児童労働を撲滅するためのJICAの革新的なデジタル技術の取り組みも紹介されました。 JICAは、カカオの生産から最終消費までのバリューチェーンを正確に監視するブロックチェーン技術によるシステムも構築しています。これにより、児童労働によって収穫されたカカオを使用したチョコレート製品の生産と消費を防ぐことができます。

最後に山中氏は、ルワンダにおけるデータ活用を通じたイノベーティブなサービス提供を進めるプロジェクトを紹介し、他のアフリカ諸国でも複製可能なルワンダ発の新しいデジタルイノベーションモデルの作成を官民連携によって支援していると述べました。

ルワムキョ・アーネスト駐日ルワンダ大使は、「ルワンダは、複数のパートナーと協力しており、中でも日本は、ルワンダや他の大陸に日本の幅広い知識のエコシステムを伝えるための重要なパートナーです」と述べました。

ルワンダは、国家情報通信基盤(NICI)政策を採用し、5年間の4つのステージで完全なデジタル化を達成するための長期計画を作成しました。これらのステージは、以下のように実施されました。

  • 第一段階(2000年~2005年)では、制度、法律、規制の枠組みを確立し、参入障壁を減らして通信市場を開放するなど、ICTセクターの土台作りを行いました。
  • 第二段階(2005年~2010年)では、情報の保存、管理、保護を一元化する国家データセンターを設立し、クラウドコンピューティングの機会を活用するなど、ICTインフラの強化に注力しました。
  • 第3ステージ(2011年~2015年)では、小学校にノートパソコンや電子タブレットを配布する「One Laptop Per Child」プログラムなど、サービス提供の改善に焦点を当てました。
  • 最終段階(2016年〜2020年)では、技能、民間企業、地域社会の発展、電子政府およびサイバーセキュリティの改善・強化に焦点を当てました。

日本やその他のパートナーの協力のもと、これらの介入により、4G LTEサービスの地理的カバー率96.7%、人口カバー率96.6%、また、携帯電話の普及率81%を達成しました。

ルワムキョ駐日ルワンダ大使は、一部の地域では前進が見られるものの、完全なデジタル化の実現にはまだ課題が残されていると指摘します。デジタルリテラシーの低さ、接続性の低さ、時代遅れのデジタル政策、財政的な制約などが懸念される課題であると指摘しました。

これらの課題を軽減するために、ルワンダは、デジタルアンバサダープログラムを通じて、デジタルリテラシーを推進し、接続性とICT投資を増やすためのガイドラインと政策を導入しています。

「イノベーションのエコシステムを強化するために、複数のステークホルダーやセクターをまとめることは、機会を解き放ち、持続可能性を確保するために不可欠です」とルワムキョ駐日ルワンダ大使は述べました。

UNDPとJICAは、人々を包摂し開発の中心に据えるデジタル変革を提唱しています。また、そのような開発の道筋を後押しする機会のひとつが、テック系スタートアップによるデジタル変革です。

チュニジアのスタートアップ・Betacubeの創業者兼CEOのアメル・サイダネ氏は、デジタル変革がアフリカやその他の開発途上国のスタートアップに大きな機会を与えることに同意しました。

「ITとスタートアップ、そしてイノベーションは、近頃のあらゆる経済に関与するアクターや経済モデルの基盤となっています。スタートアップは、新しい解決策を開発し、経済課題を解決する機会を提供し、社会・経済的な安全性と包摂性も実現します」とサイダネ氏は述べました。

しかし、デジタル・アイデンティティの問題等がアフリカの企業の80%を占める中小企業(SMEs)の信用獲得を妨げていることをサイダネ氏は強調しました。アフリカのスタートアップの潜在能力を発揮させるためには、関係者が課題を認識し、適切に対処する必要があると彼女は述べました。

サイダネ氏は、特に新興市場において、中小企業にとってのデジタル・アイデンティティの大きなメリットは、金融包摂の向上、つまり貿易金融ギャップの解消に役立つことだと指摘します。また、金融機関にとっては、Know Your Customer(KYC)やCustomer Due Diligence(CDD)のコストを削減でき、ひいては中小企業がより良い与信条件を得られるようになります。

また、サイダネ氏は、アフリカのスタートアップの潜在能力を引き出すためには、協業者や投資家が、スタートアップが直面する課題を認識し、適切に対処する必要があると強調しました。「スタートアップのための大陸全般の状況を鑑みて解決策を生み出すことは重要ですが、現地における状況や課題を見失うべきではありません」。

また、アフリカの未開拓のビジネスの可能性を強調し、「課題が大きければ大きいほど、チャンスも大きく、私たちは今、これらの問題を共に解決するのに適した場所にいます」と述べました。

このハイブリッドセッションは、全世界で425人のオンライン参加者が視聴した他、アフリカから日本に留学中の学生たちが会場参加し、次世代のリーダーとして、日本とアフリカの若者の関わりや橋渡しの可能性について、ハイレベルなパネリストと対話する機会となりました。

UNDPとJICAは、アフリカの発展のために、開発機関、市民社会、政府、民間セクター、日本など幅広いパートナーとともに、TICAD8まで、そしてそれ以降も「開発のためのDX」を推進していくことを約束しました。


イベントの録画は以下で視聴できます。