UNDP、企業・事業体向けSDGインパクト基準を発表 〜民間セクターのビジネス実践と投資を持続可能性とSDGs達成に方向づけるための意思決定基準、シリーズ最新版〜

2021年9月30日

事業の持続可能性を向上させ、持続可能な開発目標(SDGs)に積極的に貢献することは、すべての人にとってより良い、持続可能な未来を達成するための世界の青写真であり、これを実現するための最適な方法を模索する企業・事業者や投資家は増えています。実際、持続可能な開発は長期的なバリュー創出の中核であり、SDGsを達成できなければ経済成長を阻み、社会の安定や将来の事業利益をも損なうという企業や投資家の認識は高まっています。

持続可能な事業運営と SDGsへの貢献に取り組むことは、企業等に共通の言語とパーパスを与え、「新たな事業や投資の機会と効率性向上への道を開く」、「将来性のある事業および投資ポートフォリオを構築する」、「より効果的にリスクを管理する」、「世間の評判を向上させる」、「従業員、消費者、取引先、投資家を惹きつけ保持する」、「ステークホルダーとの関係を強化する」、「イノベーションを推進する」、「事業が社会の役に立つことで存在意義を認められる」、「政策の進展と足並みをそろえ、将来の政策に備える」、「社会と市場の安定を促す」等の効果をもたらします(出典に関しては こちら をご参照ください)。しかし持続可能な世界への道筋はまだついておらず、企業がその意図をどのように行動に移していけばよいのか明確な指針がありません。UNDPが策定する SDGインパクト基準 は、このような知識の隔たりを埋め、企業の姿勢を SDGsへの紐付けからSDGsに向けた具体的アクションへシフトさせる、すなわちSDGsを、事業を行うための単なる「付け足し」ではなく、すべての事業活動の運営指針の核に転換させることを目指しています。

ここに UNDP企業・事業体向けSDGインパクト基準(バージョン1.0)を発表できることを嬉しく思います。これは UNDPサステナブル・ファイナンス・ハブ の最も重要な取り組みである SDGインパクトへの主要な貢献となるでしょう。本基準は企業・事業体向けの最新版の基準であり、 プライベート・エクイティファンド向け債券発行体向け、OECDがUNDPと協力して策定したOECD-UNDP 持続可能な開発のための資金供給に関するインパクト基準などの他のアクターを対象としたインパクト基準と整合性を保っています。

本基準は意思決定のための基準であり、パフォーマンス測定やレポーティング(報告)のための基準ではありません。共通の言語とアプローチを提供することで、企業等が、持続可能で責任ある事業運営とSDGsに対する積極的な貢献を、組織体制および意思決定に組み込めるように設計されています。

SDGインパクト基準は、相互に関連した「戦略」、「アプローチ(執行・管理)」、「透明性」、「ガバナンス」という4つのテーマで構成されています。持続可能性とSDGsへの積極的な貢献を組織体制および意思決定に十分に組み込む上で、4つのテーマは重要な役割を果たします。 本基準は企業・事業体の価値創造に関する考えを変革し、組織体制や意思決定プロセスにインパクトマネジメントとSDGsへの積極的貢献を組み込むことを目指しています。組織内での実践において、このようにインパクトの組み込みやガバナンスを目指すようになることで、企業・事業体や投資家は、時間をかけて最終的な正のインパクトを最大化することを目的として、自社運営ではもちろん、サプライチェーンやバリューチェーンを通じても、正負すべての重要なインパクトを管理することができるようになるのです。

企業・事業体向けのものも含め、SDGインパクト基準はすべて、広範囲に及ぶコンサルテーションを行った上で策定されており、一般向けのコンサルテーションも2度行われています。UNDPでは、数多くの新興経済国で、各国の開発目標を達成するため政府を支援し、各コミュニティと協力して、「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」よう尽力しています。こうした新興国にとって不公平にならないよう、企業・事業体向け基準策定のための2回目のコンサルテーションの際、中小零細企業(MSMEs)向けのワーキンググループを発足しました。MSMEsワーキンググループから得られた知見は、SDGインパクト基準の基盤となる認証フレームワークの開発に反映されており、また企業・事業体の規模、成長段階、取り囲む市場環境の違いに関わらず、どの企業・事業体もこうした知見情報にアクセスできるようにしています。

SDGインパクト基準には、現在作成中のガイダンスノートやリソースなど、一連の付属的なリソースやサービスが準備されています。その一つ、 無料で利用できるオンラインのインパクト測定およびインパクトマネジメント入門研修コースがデューク大学社会起業家育成促進センター(CASE)によって2021年9月にコーセラで開設されました。インパクトマネジメントやインパクト基準に関する各種研修もUNDPの各国事務所で立ち上がりはじめています。また、SDGインパクト基準のユーザー向け研修、第三者認証提供機関向け研修も現在策定中です。

SDGインパクト基準は企業・事業体や投資家の良い進め方や自己評価ツールとして単独で利用できますが、本基準と並行して、外部機関による認証フレームワークおよびSDGインパクト認証ラベルの策定が進んでいます。2022年には認証フレームワークの試験運用が開始される予定です。企業はまず本基準を用いて自己評価を行った上で、認証を提供する第三者認証機関により、インパクトマネジメント実践の認証を定期的に受けるという形へ移行することが推奨されます。第三者認証は、市場の信頼と信用を構築し、インパクトウォッシュや誇張表現のリスクを減らすための重要なメカニズムです。認証プロセスは、企業が本基準の目標を達成するための方針やプロセスを有していることを保証できるように 設計されています。認証フレームワークおよび認証プロトコルを策定することで、質や透明性のレベルにばらつきがある独自の認証アプローチが乱立するリスクを低減します。本基準は最良の進め方を示したものであり、企業がこれを完全に実施するにはかなりの時間を有するでしょう。そのため認証は満たすべき最低限の基準値に照らして付与されますが、認証取得後も企業は継続的に理想的な指標へと近づけていく努力が求められます。認証プロトコルと最低限の基準値は 今後公表される予定です。認証機関からの認証取得を目指す前に、自社の事業運営に本基準を統合し、実施に向けたロードマップを計画する段階においても、本基準は大変役に立つでしょう。

これまで発表してきた一連のSDGインパクト基準に、この度企業・事業体向けを加えられること、そしてこうした基準がこれまで実際に市場で試験的に導入・運用されていることに励まされています。例えば中国では新開発銀行(NDB)が債券発行者向けSDGインパクト基準(およびUNDP作成中国版SDGタクソノミー)を試験的に使って、同国銀行間債券市場にて3年もの固定金利の SDG債50億元を発行しました。また日本の格付投資情報センター(R&I)は、企業・事業者向けSDGインパクト基準を利用して、神戸市のSDGsに向けての「神戸2025ビジョン」について第三者評価を公表し、UNDPのSDGインパクト基準が組織の精神や理念を語るグローバルな共通言語となりうるという認識を示しています