ウクライナでの戦争を考える: 世界の平和と開発のために投資を

2022年3月23日

ウクライナでの戦争が始まり4週間。人的被害は壊滅的なものに Photo: UNDP Ukraine/Oleksandr Ratushniak

この世界はなんと移ろいやすいものなのかということを痛感する日々が続いています。新たな課題が次々に、そしてより深刻さを増してやってきますが、そのどれもが同じ現実を浮き彫りにしています。それは私たちは皆、つながっているということです。2022年初頭、世界は新型コロナウイルス(COVID-19)の大流行から抜け出し、経済復興に向けてわずかな望みをつなぎ、少しずつ歩みを進めていましたが、ウクライナでの戦争が世界を震撼させました。戦争開始から4週間が経ち、人的被害は壊滅的なものとなっています。

国連開発計画(UNDP)が発表した初期のデータによると、戦争が長引く場合、ウクライナ人の10人に9人が貧困と極度の経済的脆弱性に直面する可能性があるとのことです。そうなれば、国や周辺地域が数十年前に逆戻りする可能性があり、今後、数世代にわたって深い社会・経済的傷跡を残すことになります。非常時には、常に弱い立場の人々が犠牲となるということを私たちは知っていたのにも関わらず、再びそのことを思い知らされることになりました。

今回の出来事はより広い範囲に地政学的、経済的な影響を及ぼし、ウクライナだけでなく、世界の平和と発展にも深刻なリスクをもたらしています。それぞれの国がこれらの課題に対し、個別に効果的な解決策を見つけることは不可能です。今後の道筋は複雑であるため、連携し、共に行動することがこれまで以上に重要です。ウクライナでの戦争に際し、多国間主義や開発協力はかつてないほど重要なものとなっています。私たちの進むべき道は、人々と地球のために、共有された目標と共通のビジョンの上に築かれなければならないのです。

世界的な感染症や気候非常事態に加え、最も脆弱な人々に対する紛争の影響に対処するための効果的な対応策を練るには、強力で安定した国際協力が不可欠です。しかし、国際開発援助は危険な状態にあるのです。ウクライナの危機により、多国間主義や国際開発協力は少なくとも以下の4点において、危機に陥る可能性があります。

第一に、ウクライナでの戦争は世界の経済生産を縮小させる可能性があり、その結果、官民双方からの開発資金額を減少させる可能性があります。紛争の長期化と報復的な経済制裁は、世界貿易と経済成長を混乱させ、国内外における開発の優先課題解決を支える政府予算を制約することになります。同様に、新型コロナウイルスによる混乱ですでにタイトになっている民間資本の流れも、投資家の信頼が損なわれた結果、さらに打撃を受ける可能性があるのです。このことは連鎖的な影響を及ぼし、特に脆弱で壊れやすい状況にある国々が十分な開発資金を調達することが難しくなる恐れがあります。

第二に、主要援助国がウクライナ危機に取り組む中、国際支援に重大な影響を与える可能性のある大きな政策転換が行われていることです。すでに、欧州では安全保障上のリスクの高まりに対応するため、国防予算を増加させており、国際支援や他の予算枠に影響を与える可能性があります。ドイツ、スウェーデン、デンマーク、ポーランドは、国防費をGDPの2%かそれ以上に引き上げると発表し、デンマークにおいては、ウクライナ難民の受け入れ費用を賄うため、現行の2022年の政府開発援助(ODA)予算を3億米ドル削減する意向を表明しています。ウクライナ難民の数は現在650万人を超えており、差し迫った難民危機により、難民の受け入れや関連する人道的ニーズに対応するため、相当額のODAが流用される可能性があります。

第三に、ウクライナ危機の物価・エネルギー価格への波及効果は、紛争地域を超えて大きく広がっています。物価の上昇は、インフレや債務への圧力の高まりと相まって、不安定と不安を煽る可能性が高まっています。ロシアとウクライナは世界の小麦輸出の30%を占めており、ウクライナの紛争は今や世界的な食糧危機を引き起こす恐れがあるのです。ガス価格の高騰は、石油を輸入している途上国を経済的苦境と不況に陥れ、平和と安定が損なわれることになります。

第四に、ウクライナでの戦争の直接的・間接的影響により、すでに厳しい状況にさらされていた多国間開発システムは更なる困難に陥っています。2021年12月、国連人道問題調整事務所(OCHA)は、貧困、飢餓、紛争、新型コロナウイルスの影響など複数の危機に苦しむ世界で最も脆弱な1億8300万人を支援するため、過去最高の410億米ドルの支援を要請しました。国連は、ウクライナ危機のために、さらに26億米ドルが必要になると見積もっています。イエメン、アフガニスタン、ソマリア、南スーダン、ミャンマーなど、新たな危機的状況や進行中の危機において人道的ニーズが高まる中、差し迫った人道的ニーズに資金が使われ、長期的な開発への投資は後回しにされてしまうのです。国際機関への開発予算がこれ以上削減されれば、開発システムが開発ニーズへ対応する能力が低下することになります。

ウクライナ危機が長期的に国際開発に及ぼす広範囲な影響を考慮すると、国際社会にとっては、ウクライナの危機に対する世界の対応において、包括的な開発ソリューションを、付け足しとしてではなく、中心に据えることが極めて重要となります。一方で、国際社会は市民社会および他のパートナー組織と協力し、紛争に対応するための軍事費などの予算増額によって、他の地域や課題に対するグローバルな開発および人道支援のための資金がカットされることがないようにしていくことが重要です。

今こそ、国際社会は世界の平和と発展へのコミットメントを再確認する時です。これらのコミットメントを支えるのは、普遍的な価値を守り、世界の復興と持続可能な未来を促進することができる強力で効果的な多国間システムに他なりません。国連の開発システムが、その普遍的な使命と存在感を維持し、困難で長期化する危機的状況においても、現場に留まり、成果をあげるという約束を守り続けることが極めて重要です。しかし、これは何もしないでも達成できることではありません。加盟国やその他のパートナー組織からの積極的かつ献身的な支援と投資が必要なのです。

安全が保証されず、次の食事の確保すら容易ではない何億もの人々にとって、生活がより複雑で危険なものになる時、頼りになるのは開発協力です。適切で柔軟、かつ予測可能な資金は、多国間開発システムが最も脆弱な人々を取り残さないようにするための「第一の対応策」となるのです。