ミャンマーで中産階級が消滅し、貧困が深まる

ミャンマーでは貧困が深刻化する中、中産階級が消滅しつつあり、特に女性と子どもといった社会的弱者が最も大きな打撃を受けていることを踏まえ、国連開発計画(UNDP)は早急な国際支援を要請します。

2024年4月15日

本報告書は、ミャンマー各地の都市部と農村部の両方において、さまざまなコミュニティーの具体的なニーズに合わせた国際的な支援が緊急に必要であることを強調

Photo: UNDP Myanmar

国連開発計画(UNDP)は、ミャンマーにおいて不安定な情勢と紛争が蔓延し、悲惨な経済危機が続く中、貧困の急増と相まって、過去3年間で中産階級が50%縮小したことなどを示す報告書を発表しました。

「ミャンマーの貧困と家計経済:失われつつある中間層」と題されたこの報告書は、2021年2月の軍事政権移行以降、現在進行中の課題が深刻な影響を及ぼしていることを明らかにしました。人口の76%が自給自足以下かそれに近い生活をしており、貧困率は2017年の24.8%から2023年には49.7%へとほぼ倍増している一方、海外からの直接投資は激減しています。

長引く不況はミャンマー経済に大きな打撃を与え、2021年のGDP-17.9%という深刻な縮小以来、ミャンマー経済はまだ十分に回復していません。ショックを和らげ、国家経済の回復を早める中産階級は、貧困への逆戻りによって急速に浸食されています。現金給付やその他の手段を通じて、この貧困のうねりに効果的に対処するためには年間40億ドルが必要になると、報告書では試算しています。

UNDP総裁のアヒム・シュタイナーは、「新しいデータによれば、ミャンマーでは25%に満たない人々しか、貧困ラインを超えて生活するための安定した収入を確保できていない。現金給付、食糧安全保障、基本的サービスへのアクセスを提供するための早急な介入がなければ、脆弱性は拡大し続け、その影響は世代を超えて及んでしまいます。我々は、ミャンマー内外を問わず、すべての関係者が行動を起こし、脆弱な世帯が取り返しのつかない貧困と絶望に陥るのを防ぐよう呼びかけます」と述べました。

この報告書は、ミャンマー全土で1万2,000世帯以上を対象に実施された調査に基づいて作成されており、近年実施された全国規模の調査で最大のものです。その結果、ほぼすべての家庭や世帯が、医療費や教育費の切り崩し、貯蓄の枯渇、借金、少食など、持続不可能な対処法に頼らざるを得なくなっていることが判明しました。

危機の矛先は、女性、子ども、紛争地域に住む人々に偏って向けられています。調査結果によると、女性の貧困が進行おり、女性が世帯主である世帯が貧困に陥る可能性は、男性が世帯主である世帯の1.2倍です。また、貧困と教育費の高騰により、低所得世帯の学校教育への充当率はわずか2%にとどまっています。ミャンマーの子どもたちの半数以上が貧困ライン以下で生活しており、この危機は国の将来の担い手層に脅威をもたらし、何世代に続く影響を及ぼします。

報告書は、中産階級が今にも切れてしまう糸にしがみ付いているような状況であることを指摘しています。かつてミャンマーは、アジア・太平洋地域で最も急成長している経済の1つであり、地域経済の原動力であったが、賃金の低迷、移動の制限、労働市場の状況の悪化により、浸食されつつあります。調査対象世帯の半数にとって、社会経済的地位を維持するための経済的生命線であった副収入が失われたことで、状況は益々悪化しています。更に、健康や教育といった人的資本への投資が押し出され、将来の世代を弱体化させています。ただ命を繋ぐための基本的なニーズに必要な資金が優先されています。

また、国内の地域格差は、ミャンマーの危機を悪化させています。紛争が頻発する地域では、家屋の破壊、農地へのアクセス制限、国内避難民の増加といった要因から貧困レベルが高まっており、これらすべてが不安定と経済的苦難の深化に繋がっています。具体的には、二次所得以外の所得の割合が最も高いカヤー州(67%)、チン州(63%)、サガイン州(57%)は紛争も多く、一人当たりの所得が最も低くなっています。

加えて、貧困は今や都市部にも広がり、ヤンゴンやマンダレーなど、かつては豊かだった地域にも影響を及ぼしています。比較的裕福な人々でさえ苦境に立たされており、75%が否定的な対処方法に頼っています。この報告書は、ヤンゴン全土の都市部と農村部の両方において、様々なコミュニティの具体的なニーズに合わせた国際支援が緊急に必要であることを強調しています。「この憂慮すべきデータや声は、紛争と経済危機の複合的な影響がいかに広範囲に及んでいるかを示しており、それゆえ、支援がどこにいようと、すべての脆弱なコミュニティに届く必要があります」と、UNDPアジア・太平洋地域局長のカンニ・ウィグナラジャは断言し、「特定のミクロな状況に合わせて設計された、地域に根ざしたプログラムは、ミャンマーの人々を支援する長い道のりを歩むことができます」と強調します。

主要な調査結果データ

  • 人口に占める貧困人口の割合は2017年から2023年にかけて倍増し、24.8%から49.7%とほぼ半数に達した。更に人口の25%が貧困に陥る既の所にあることから、76%が貧困に陥っているか、生活不安に直面している。
  • 資産ベースの上位20%を、一人当たりの所得が比較的高い層とした。しかし、この所得レベルは一般的な中産階級の生活水準に必要な所得を大きく下回っている。
  • 全世帯の半数が二次的収入源を欠いている。女性が世帯主である世帯は、男性が世帯主である世帯に比べて貧困に陥る可能性が1.2倍高い。
  • 外国直接投資(FDI)は、2017年には50億米ドルを超えたが、2021年には20億米ドルを下回った。2022-23年には若干の回復傾向が見られるものの、年間平均FDIコミットメントは依然として前年より大幅に低い。
  • カヤー州は所得減少を経験した世帯の割合が最も高く、50%を記録した。サガイン州、タニンタリー州、ラカイン州でも大幅な減少が見られ、それぞれ40%、37%、36%の世帯が影響を受けた。