国連、紅海での石油流出大事故の防止に向けて大きく前進

国連開発計画は、Boskalisの子会社SMIT Salvageとの間で、老朽化したタンカーから100万バレルの石油を移送するための契約を締結しました。救難チームの船「エンデバー号」は紅海に向けて出航しました。資金の調達が急がれます。

2023年5月2日

乗組員と専門家を乗せて出航予定の多目的支援船エンデバー号には、発電機や油圧ポンプその他、機能システムを失ったサーフィル号で作業を行うための専門機材が積み込まれています。

Photo: Boskalis

ロッテルダム – イエメン紅海沿岸での大規模石油流出を防ぐための新しい重要な一歩として、世界をリードする大手マリコンBoskalis社の支援船「エンデバー号」が、紅海に向けて出航しました。 

国連開発計画(UNDP)は4月19日、Boskalisの子会社SMIT Salvageとの間で、浮体式貯蔵積出設備(FSO)「セイファー号」に積まれている100万バレルの石油を安全な代替船に移すとともに、セイファー号を環境配慮型の船舶解体所に曳航する準備をするための契約に最終合意しました。 

イエメンのラス・イサ半島沖合での作業は、5月に始まる見通しです。UNDPはこれに先立ち、セイファー号から石油を移送するための代替船「ノーティカ号」を確保しています。 

アヒム・シュタイナーUNDP総裁は「UNDPとBoskalis子会社SMIT Salvageとの間できょう成立した、エンデバー号に一流専門家のチームを展開するための合意は、老朽化が進むFSOセイファー号から一時的に安全な船舶へと石油を移送する「紅海の石油流出防止」作戦が、新たに重要な転機を迎えたことを意味します」と語っています。「私たちは、Boskalisやその他の一流専門家と、人道面、環境面、経済面な災害を防ぐために協力できることを心待ちにしています。また、各国の政府と企業に対しては、この複合的な救援活動を成し遂げるためにさらに必要な2,900万ドルの調達を、積極的に支援していただくようお願いします。」 

2021年から、セイファー号に関する国連システム全体の取り組みを率いているデイビッド・グレスリー国連イエメン常駐・人道調整官は、「今回の活動は、一見して解決不可能な世界の問題への取り組みにおいて、国連が独自の役割を果たせることを明らかにするものといえます。UNDPをはじめ、国連内外のパートナーは、私たちがここまで来られたことを誇りに思って然るべきです。しかし私たちは、緊急作業に向けて2,900万ドル近い資金不足を緊急に埋めるとともに、長期的に石油の安全な貯蔵を確保するために必要な追加的資金を調達せねばなりません」と述べています。 

乗組員と専門家を乗せて出航予定の多目的支援船エンデバー号には、発電機や油圧ポンプその他、機能システムを失ったセイファー号で作業を行うための専門機材が積み込まれています。 

子会社のSMIT Salvageを通じて契約に署名したBoskalisのCEOペーター・ボルドウスキー氏は、「長い計画期間を経て、私たちの救難専門家たちは、セイファー号からの石油移送活動に取りかかる意欲に燃えています。オランダをはじめ、今回の活動を支援していただいた多くの国連加盟国に感謝の意を表したいと思います。Boskalisのエンデバー号は出発の準備を整えており、乗組員には、今回の重要なミッションの成功を願っています」と語っています。 

英国とオランダは4月17日、2段階に分かれているセイファー号プロジェクト全体に必要な資金全額を調達するため、5月4日に支援会合を共催すると発表しています。 

オランダのリーシェ・シュライネマッハー外国貿易・開発協力大臣は、「人道面、環境面、経済面で甚大な被害を及ぼしかねない巨大な石油流出事故が迫りつつあります。しかし、私たちにはいま、その災害を防ぐチャンスが訪れています。オランダはこれまで、この活動に必要な資金調達に全力を傾けてきましたが、このたび新たに大きな一歩が踏み出されました。オランダの企業Boskalisがその対応で重要な役割を担うことは喜ばしい限りです。オランダは引き続き、国連によるこの問題の解決を支援していきます」と語っています。 

国連はこれまで、9,960万ドルに上る資金拠出の確約を取り付けています。第1段階の予算総額は1億2,900万ドルで、まだ2,940万ドルが不足しています。第2段階の活動には、1,900万ドルが必要になると見られます。 

この不足分を埋めるため、国連は加盟国と民間企業のほか、全世界の一般市民にもクラウドファンディング・アピールを通じた資金拠出要請を行っており、すでに数千人から寄付が集まっています。 

さらに詳しくは、www.un.org/StopRedSeaSpillをご覧ください。

 


背景 

セイファー号は1988年から、イエメンのラス・イサ半島沖約9kmの地点に係留されており、いつ爆発しても、崩壊してもおかしくない状況にあります。イエメンで紛争が勃発したため、FSOセイファー号は、爆発または崩壊の差し迫った危険性を孕む状態にまで老朽化していますが、仮に事故が起きた場合には、この地域一帯やその外側にも、甚大な影響が及ぶことになります。 

大量の石油が流出すれば、イエメンのラス・イサ沿岸の漁村が壊滅的打撃を受け、20万人が直ちに生活の糧を失うことになると見られます。また、コミュニティ全体が生命を脅かす毒素にさらされます。深刻な大気汚染は数百万人に影響を及ぼすでしょう。1,700万人が食料援助を必要としているイエメンに食料や燃料、救命物資を運び込むために欠かせないホデイダ港とサリフ港も、閉鎖されるおそれがあります。淡水化プラントが閉鎖されれば、数百万人が水の供給を絶たれます。セイファー号から流出した石油は、アフリカの沿岸にまで到達し、紅海に面するあらゆる国に被害が及びかねません。サンゴ礁の生命を維持するマングローブやその他の海洋生物に対する環境面での影響も、深刻なものになるでしょう。漁業資源の回復には、25年を要するものと見られます。

清掃のコストだけでも、200億ドルに達するものと推計されています。2021年にスエズ運河でエバーギブン号が座礁した時のように、バブ・エル・マンデブ海峡を通ってスエズ運河へと至る海運が混乱すれば、世界貿易の損失はさらに1日数十億ドルにも上りかねません。

 デイビッド・グレスリー国連イエメン常駐・人道調整官は2021年9月から、国連システム全体の取り組みを率いています。UNDPはこの複雑でリスクの大きいプロジェクトの実施機関です。