日本企業およびそのサプライヤーに期待される人権デュー・ディリジェンスの現状と今後の展開

日本とUNDPの新たなパートナーシップ

2022年6月20日
Photo: UNDP

中谷元内閣総理大臣補佐官(国際人権担当)、

小田原潔外務副大臣、

本イベントにご後援、ご登壇頂く皆さま、

会場及びオンラインでご参加のすべての皆さま、

本日、こうして日本企業の責任あるサプライチェーン構築を支援するための日本政府と国連開発計画(UNDP)の新たなパートナーシップ事業を広く皆さまに知って頂く機会をもたせて頂き、喜びに堪えません。イベントに参加登録された方々の数は会場120人に加え、オンラインで800人を超え、それも、50か国以上から参加されています。日本におけるビジネスと人権の発展について聞くために、これだけの反響があるということは、いかに日本企業のバリューチェーンがグローバル化しているかを物語るとともに、主催者としてこの事業の実施をさらに加速化しなければならないとの思いを新たにしているところです。

皆さまご存知のように、責任ある企業行動に関する世界的な議論は、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、この10年間で急速に発展し、とりわけこの数年の進展は目を見張るものがあります。投資家の関心、消費者からの圧力、そして規制を求める声によって、ビジネスは、より公正で持続可能な社会の発展をリードする役割を期待されるようになりました。世界中の企業が目標を高め、言葉を行動に置き換え、人権基準に基づいた良き実践例を確立しようとしています。

近年、ドイツ、フランス、オーストラリアなどの主要先進国は、すべての企業が人への負の影響を特定、防止、軽減することを義務付けるデュー・ディリジェンスの規範を採択しています。米国は強制労働によって生産された商品の輸入を禁止しています。近いうち、欧州連合(EU)も人権デュー・ディリジェンスを義務化するでしょう。

こうした中、日本政府は、今年夏までの取りまとめを目指し、人権デュー・ディリジェンスの業種横断的なガイドラインを策定すると承知しています。2020年の「ビジネスと人権に関する行動計画」の採択に続く、日本政府によるこの新しい大きな一歩は、責任あるサプライチェーンの推進において、日本をアジアのリーダーとして確固たる地位に押し上げることでしょう。

また、経団連は、企業行動憲章を改正されるにあたり、人権に関する新たな章を設け、人権を尊重する経営のためのハンドブックを策定されるなど、ビジネスと人権への取り組みを抜本的に強化されているとお伺いしています。

これらの施策は、人権デュー・ディリジェンスの実施に対する日本の政府、産業界のコミットメントを示すものであり、敬意を表します。

UNDPは、このような日本の官民挙げてのご努力を一層後押しするためのパートナーとして、5つの地域にまたがる17か国において事業を展開します。

UNDPは2016年以来、アジア太平洋地域を中心に、EUやスウェーデンの支援でビジネスと人権に関する国別アクション・プランの策定と実施に対する技術支援、企業への助言、企業による人権侵害の被害者に対するの救済へのアクセス促進などの活動を行ってきました。今やこのUNDPの活動は日本の拠出のおかげで 5地域26か国にまで拡大しています。

この事業は、現場レベルでは本年3月からすでに始まっています。既に各国ベースの事業立ち上げイベントは、タイ、ペルー、モザンビーク、モンゴル、パキスタン、キルギスで開催され、大きな成功を収めています。今日、私たちは、既に起きていることと、今求められていることとを本社レベルとサプライチェーン全体で点をつなぐ作業に取りかかったと言えましょう。

これまでの私たちの人権リスク分析、ガイダンス、サポート経験を踏まえ、企業向けトレーニングガイドの英語版が既に完成しており、法務省のご支援により日本語版もまもなく発行されます。

また、人権デュー・ディリジェンスは、一律に対応できるものではなく、より複雑な状況下では、より複雑な対応が必要となります。特にウクライナのような紛争地域で活動する企業やそのサプライチェーンにとってはなおさらです。UNDPは来週、紛争の影響を受けている国で活動する企業向けのマニュアルを英語で発表する予定です。これは適切な紛争分析を人権デュー・ディリジェンスに追加する方法についての手引きで、日本語版発行の準備も進んでいます。

本事業は、UNDPと日本政府に加え、国連ビジネスと人権作業部会、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)など、責任あるビジネスの分野で活動するパートナーとの連携により実施します。また、今回この事業に寛大なる拠出をして頂いた外務省に加え、経済産業省、法務省、日本貿易振興機構(ジェトロ)、JICAなど、オールジャパンでの協力を頂いております。

UNDPは、より公正な社会、持続可能な開発、人間の安全保障の実現を目指し、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン 、日本経済団体連合会(経団連)、個々の企業様、市民社会の皆様をはじめとして、関心のあるすべてのステークホルダーとともに、力を合わせて取り組みを強化して参ります。

UNDPと日本との新しいパートナーシップが共に成し遂げるであろう偉業に大いに期待しつつ、私からのご挨拶とさせていただきます。

ありがとうございました。


英語版はこちら


セミナー「日本企業およびそのサプライヤーに期待される人権デュー・ディリジェンスの現状と今後の展開 〜日本とUNDPの新たなパートナーシップ」
2022年6月17日 東京 経団連会館 国際会議場
岡井朝子 国連事務次長補・国連開発計画(UNDP)総裁補兼危機局長 開会挨拶