コロナ禍でも母国への仕送りを可能とする五つの方法

2020年7月2日

Image: Bibit Unggul/Shutterstock.com

ある日、ソマリアの首都モガディシュにいるアブダラ・サブドーさんが、アメリカにいる従兄弟のユスフ・アフメドさんからの毎月の仕送り200ドルを確認したところ、そのお金は届いていませんでした。タクシー運転手として働くアフメドさんは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染防止策として街の封鎖が行われたため、数週間前から仕事ができなくなっていたのです。サブドーさんがAP通信に伝えた話によると、そのお金がなければ、家賃も支払うことができないとのことでした。

今、世界では多くの世帯がサブドーさんのように生活に困窮しています。特に海外からの仕送りに生活が支えられている地域では大問題となっています。世界銀行は2020年の世界の海外からの仕送り送金額が20%、額にすると約1,100億米ドル減少すると予測しています。このお金なしでは、住宅、教育、食糧、医療などの基本的なニーズを充足できない人が8億人にものぼる可能性があるのです。

海外からの仕送りに頼っている国々は、新型コロナウイルスの社会経済的影響に対して特に脆弱です。国連事務総長の政策ブリーフ『新型コロナウイルスと移動する人々 (COVID-19 and People on the Move)』では、難民、移民など母国から離れて暮らす人々をめぐるコロナウィルスの影響を分析していますが、これによると、海外からの送金が国内総生産(GDP)の10%以上を占める国が30か国に上ります。これがなくなれば、投資と消費は落ち込み、貧困と格差がより深刻になるでしょう。

希望の光

事態の深刻化を防ぐためには、新型コロナウイルス流行中やその収束後も海外送金が続けられるように、なんとか手を打たなければなりません。そのための5つの案を紹介します。

  1. 海外送金をコロナ禍の中でも必要不可欠な金融サービスとみなし営業を継続させること:国連開発計画(UNDP)、国連資本開発基金(UNCDF)などの協力の下、この度スイスと英国政府が主導し「危機における海外送金維持」への呼びかけが行われましたが、この明快な考えに基づいています。私たちは、政策立案者、規制当局、サービス提供者に対し、海外送金業務を必要不可欠な金融サービスとみなすよう求めます。危機下のこの時期に安全性を担保するためには、衛生面とソーシャルディスタンスのためのしっかりとした感染予防措置が代理店それぞれで取られることが条件となるでしょう。

  2. 送金促進のための政策及び規制環境を整備すること:健全で予測可能且つ非差別的な送金サービスの法的・規制的枠組みによって、送金手数料を下げ、公式な送金ルートの利便性を高め、送金額の減少を食い止め、さらに電子取引の利用を拡大するようにすべきです。規制の枠組みを効果的なものとするには、移行期間中のイノベーションとリスクのバランスをとる必要があります。事業者が運営の維持と事業コストの削減に苦慮しているため、政府は譲与的信用枠の提供や、事業費や手数料の一時的な減税・免除を検討するべきでしょう。また、賃金支払いにおけるデジタル化をより積極的に進めることで、安全性の低い対面取引を回避し、時間とコストの節約につなげることもできます。

  3. デジタルソリューションへ投資すること:デジタル送金ルートの利用を促進するためには、まずアクセスに関する重要な諸問題に対処しなければなりません。その中でも最も重要なのは「顧客を知る」手法です。今日、多くの国の規制においては、モバイル・ウォレットなどのデジタル口座を開設するために、物理的な身分証明書と顧客の署名が必要となっています。ソーシャルディスタンスが重要な今、このようなやり方は健康と安全上のリスクをもたらします。低額取引口座に電子署名を容認することで、コンプライアンス上のコストを削減し、移民がより簡単にサービスを利用できるようになります。

    デジタルビジネスモデルは、すでに大きな変化をもたらしています。フィジーでは、UNDP、UNCDF及びボーダフォンの現地法人とのパートナーシップにより、携帯電話を利用した金融サービスであるM-PAiSAプラットフォームの利用者は、2ヶ月間無料でお金を送受信することができるようになりました。この金融システムは、元々、大型サイクロン「ハロルド」襲来後に導入されたものでしたが、 新型コロナウイルス流行前の送金は月平均で約6,500件、取引金額は90万米ドル強でしたが、手数料無料化により、2020年4月の取引量は約12,500件、取引高は180万米ドルを超えました。さらに、5月には22,000件、310万米ドル以上に増加しました。この傾向が続けば、6月末までに、M-PAiSAを介した海外からフィジーへの送金は25,000件を超え、額にして370万米ドル近くに達すると予想されています。

  4. 正規送金ルートへのアクセスを可能にすること:仕送りは多くの国、特にアフリカの国々にとって人々の生命線となっています。例えばレソトとガンビアでは、それぞれのGDPの17.5%と15%を仕送りが占めています。UNDPの金融セクター・ハブはアフリカで、地域のフィンテック・ハブと提携し、移民とその家族が低取引コストで正規の送金ルートを利用できるようにするデジタル・ソリューションを導入しています。クラウドファンディング・プラットフォームを設置する零細企業の信用力を高めるために、文書化された信頼できる収入の流れとして仕送りを含めるよう民間銀行に働きかけています。UNCDFは最近、移民と仕送りを支援するための包摂的なデジタル・ソリューションの提案を募集し始めました。UNDPとUNCDFは、移民とその家族の生活をより強靭にするために、彼らが利用できる貯蓄や保険商品への道を開くような革新的なデジタル送金商品を支援しています。

  5. 利用者のデジタル能力を強化すること:ロックダウンや移動が制限されている間においても送金を継続するためには、送金者と受取者がデジタル・チャネルに確実にアクセスできるようにすることが必要不可欠です。まさに送金を最も頼りにしている人々こそ、デジタル・アクセスが限られているということが多く、移民が帰国の際に手持ちで持ち帰る非公式の送金に依存していることが多いのが現実です。対処策として、UNDPとUNCDFは、送金国と受取国の両方で、移民やその家族が電子媒体を使った金融制度を使ための支援策を行っています。

人の移動を再考する

移民は世界人口の3.5%を占めますが、世界全体の国内総生産への貢献度においては10%近くに相当します。渡航先の国において、移民を安全に、秩序を保ちつつ、正規の方法で社会に統合することで、毎年8,000億米ドルから1兆米ドル、世界経済を押し上げると推計されています。コロナ禍により移動や移住の未来が変容する中、官民一体となって国際社会を巻き込み、アントニオ・グテーレス国連事務総長が提案した「人間の移動を再考」することが急務です。私たちは共に行動することで、このコロナ禍の間、海外からの仕送りを維持するだけでなく、将来の危機に対する各国やコミュニティの強靭力を高めるためのシステムを築くことができるのです。この機会を逃すわけにはいきません。